しーもんのふぇてぃっしゅなはなし5: コアラの行進曲(マーチ)<中>

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[5]コアラの行進曲(マーチ)<中>

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「モデルも来たし、これで全員ソロったから、はじめようか?」

 

あたしがその場にくることがまるで「当然」だったかのように
言われて「ナニソレ」と思ったが、
クチに出さなかった。




全員が、彼のところに集まりだす。

バスルームにいた、トイレにいた、窓際にいた、
オンナたちが夫々集まりだす。

あたしも呼ばれてもいないのに感じる、
集まらなくちゃいけない空気。




全員が、彼を取り囲むように、彼に寄った。




普段の仕事着ともいえる高級ラバースーツに身を包んだ友達の女王様は
あたしの顔を見ないで、手をぎゅっと繋いだ。



「はじまる、ね。。」



手を握られながら、あたしも女王様の顔を見なかった。

 


ナニがハジまるのかは、知らない。


でも、

ナニかがはじまるのは、わかってた。





初老の男性は着ていたガウンを脱ぎ始め全裸になり葉巻を切りはじめる。
若いコロはきっと肉付きがよかったであろう体形だが、
今ではちょっと元気な、おじいちゃん風に見える。

慣れた手つきでフィルターに丁寧に切れ込みを入れ、
ベポライザーに取り付ける姿は、
ドコかのシャーマンが、交霊の儀式の準備でもする様だった。





ナンダコレ?

謎の問いかけがあたしの脳裏を過る中、
式は、厳かに、そしてまるで当然のコトのようにはじまった。





輪になる、あたし達。

まるで、其処にいることが、あたかも必然なもののように。

まるで、今から始まることが、いつもの風景と同じかのように。

なにも脈絡がなく、なにもしがらみがない光景。





ごミサのカトリックの司祭よろしく
琥珀色の飲み物をグラスに一杯入れて飲み干した彼は
空になったグラスにさらにもう一杯を注ぎ足し
葉巻に火を点ける、



「これは、貴方の血であり、肉である」

むかし学校の講堂で言っていた司祭の言葉があたしの脳裏に蘇ると同時に、
彼の右手が、彼自身を掴み動き始めた。


全員の視線がそれに集中する。


一人ひとりにアイコンタクトをとりながら、
彼は快感の嗚咽を漏らした。




あたし、とうとう妙なところにきちゃったんだ。。。


観念したように合わせた目を伏し目に逸らして、
あたしは誰にもわからないように、小さく溜息をついた。




そう、、あたしが呼び出された会合は、
マスターである初老の男性主催の
「自慰鑑賞会」であった。

 

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彼の設定したルールは簡単だった。

「ダマって、僕のことを見てればいいの。」





それだけであって、
だからといってそれ以外は許されない空間で
全員が彼に注目する中、

あたしはひたすら、息をして、心臓を動かし、
体の細部にまで自身の血を行き渡らせる活動を続け、
自分の蘇生維持をしていく。

自慰をする彼を見続けるその間にも
自分の脳内の処理すら怠らなかった。




彼は勃起した自分のものを握り締め、上下に動かしている。
そしてたまに、ベポライザーで吐かれ続ける煙を吸い込んでは
そこにいる全員と視線を交わしていく。

チっ、と見るトキもあれば、
じぃっ、と見つめられるトキもあり、
最初はそれにいちいち反応していたあたしだったけれど、
ソレも面倒になってくる。




せわしなく動く彼の手を見続け、
ボーっとしてくる自分がいた。






人間の「適応能力」は、すごい。

すごいんだが、、、。
なんだろう。



なんだろう、この、得体の知れない、感覚は。


呆然とした非日常を目の当たりにしてあたしは、
そんなことしか、考えていなかった。

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時間が立つと、それなりに場の雰囲気や色は変わっていく。

それは、友達の結婚前日のバチェラーパーティーだって、
子供同士の誕生日会だって、高校生の謝恩会だって、
社会人の合コンだって、黄昏流星群の同窓会だって、、、

全部が全部、同じなんだろう。





この「自慰鑑賞会」もそのコトバに違わず、
当初とはマッタク異なるモノに変貌を遂げようとしていた。




知り合い。といえるには程遠い群の中、
一緒に垂れ流す時間だけが
その場の結束力を強めていく。



「一人の人間の、他人の自慰を鑑賞している、同志。」

・・・どんな結束力だろう。





40分ほど経過したところで、
石原慎太郎のようにマバタキ多目にパチクリしていたあたしは、
目の焦点を限界までボヤかす。というゲームを
勝手に一人でやっていたのだが、←ヨリ目
やがてそれにも飽きてきた。


デリバリーのピザを一切れ手にし、
目の前にあったワインを瓶ごと飲みはじめた。
周りも皆、それに触発されたかのように連鎖していく。



誰の。とか誰が。とか関係なく、
何故かダイジョウブだという妙な信頼感がソコにある。

でもそれは、蜘蛛の糸のように細く、
不透明で、あやふやなものであったけれど。



全員が初見の人々の群の中、
これほど心強い親近感はなんだろう。


信頼感?親近感?結束力?
まるでわからないが、その類のモノである。






ソレは、同じ学校、同じ環境、同じ国で、、、
なんていうモノとは違う、
旅行のトキに現地ゴアで知り合った3人の
イギリス人、トルコ人、フランス人と共有した、

まるで
「同じ、空のした。」
の感覚と酷似。


勝手に一人で、「宇宙船地球号」にでも、
乗っちまったんぢゃないの?
という、この感覚がフラッシュバックする。




旅行中彼らのうちの二人が、プロポーズをしてきたが
「みんなと、こうして同じ空のしたにいるだけで、シアワセ。」
という、あたしなりの見解を出したトコロ、

めちゃくちゃキマっていた彼らは
涙を流して感動してくれた結果
結婚にも、だからといって重婚にも至らなかったんだった。


英国紳士とフランス男は一人旅のあたしを通じて知り合い、
合流するカタチで一緒に旅をしていたが、
それはそれで仲が悪かったから、

なんだかあたしは気を遣ったのを覚えている。

ターキッシュな彼にはアメリカ人のゲイの恋人がいた。




ネパールに行くバスの中で、バラナシを登り、ゴーラクプルからサトナーにいく。
早朝5時に、市場の横でしょっ辛い料理。全部ターメリックの味。

朝からホーリーの祭りに出くわして全身色塗れになりながら、
クリシュナの格好をした男の子におでこにキスされたのを思い出す、



・・あのときの、色。

紫の、桃色の、なにか。

に、今、すごく、似ている。。。








そんな思い出を振り返る中、
奇妙な会合は続いていく。。。


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